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「でもォ、仕事頼むとき、みんな松田さんに頼むじゃないですか。
信頼されてるんですよ」
「そうかな。だったらいいなとは思いますけど」
「ホントよ。美人だし、優しいし、しっかりしてるし。
独身だったら口説いてるのにって言ってる人も結構いるんだから」
「やあねえ、みんな口が巧いんだもの、困っちゃうわ。
あ、ほら、高塚さん、お客さま」
「やだ、すみませぇーん」
慌てて部屋の入り口にぱたぱたと駆けていく高塚さんの背中にほっとため息をつく。
この会社は、つい最近、結婚前に勤めていた会社に紹介してもらったところだ。
この職場の人たちには夫が亡くなったことは伝えていない。
人事のヒトにも口止めしてある。
結婚指輪は嵌めたままだし、この先ずっと外す気もない。
購入したマンションのローンは、購入時に入った保険で賄(まかな)われてしまった。
亨が死んだことでローンを払わなくてもよくなったのだ。
子どももないし、自分ひとり暮らす分には、それほど収入が必要なわけでもない。
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