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『おはよう、加奈子さん。愛してるよ』
電話越しの低い声は、なんだかとても眠たそうだ。
きっかり7時30分のモーニングコールは、もう少しで1年になる。
「おはよう、ゆう君。愛してるわ。きょうは眠そうね。徹夜明け?」
『残念ながら、まだ明けてないんだ。明日プレゼンでさ』
「そっか。仕事取れるといいね」
電話の向こうの相手、佐久間雄也はインテリアコーディネートの会社に勤めるデザイナーだ。
近頃、やっと大きな仕事を任せてもらえるようになったらしく、楽しそうにしている。
『ありがとう、頑張るよ。加奈子さんは? これから仕事?』
「そう、これから仕事。――ね、ゆう君、忙しい時まで掛けてこなくても」
『駄目だよ、加奈子さん。約束だろ? 2年は続けるって話。
――それとも、もう降参する?』
「そういうわけじゃ、ないけど。つらいでしょ」
『気にしてくれるんだ? やさしいね。
俺は平気。仕事にメリハリがついていいくらいだ』
適当に話を切り上げて電話を切ると、私は出かける支度にかかった。
モーニングコールといいつつ、寝起きには心臓に悪い電話だから、とうに起きて朝食も済んでいる。
早起きする分だけ、毎日お弁当をつめる余裕が出来てしまった。
毎日こんな会話をしているけれど、私とゆう君は恋人じゃない。
このおかしなモーニングコールは、場の勢いとなりゆきの賜物だ。
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