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「じゃあ、何か賭けようか。そうだな……俺が負けたら、これをやるよ」
「指輪? これ、シルバー?」
ゆう君が小指から外して見せたのは、すこし凝った形の指輪だ。
蛇がモチーフらしく、二重に巻きついたその蛇の頭は、自分の尾を咥えている。
素材はつや消しの銀で、ウロコらしい模様も入っていてかなり細かいつくりだ。
「そ。それだったら使えるだろ。俺の小指に嵌ってるやつだから」
「あ、ホントだ。そう言えば、コレ、ちょっと前からしてるよね。どしたの?」
「銀粘土。同じ会社のツレが最近嵌っててさ。
んで、依頼されてる店内の小物とかコレで作ってみるかーなんて話になって、試作したやつ。
小さすぎて小指にしか入らんのよ」
「失敗作だ」
私はそう言ってきゃはははっと笑った。
アルコールがかなり効いてきているかもしれない。
「や、そうでもないよ? 一応形はいい感じになったし。
加奈子さんさ、毎朝何時に起きんの?」
「んー、7時半くらいかなぁ」
だんだん眠くなってきた。
ちょっとだけ机に寄りかかる。
グラスを頬に当てるとつめたくて気持ちいい。
「休みの日は」
「休みの日もー、同じー。
そうしないと普通の日に起きれないもん」
ああ、だめだ。体が崩れてく。
このまま机に突っ伏して眠りたい。
「じゃあ、加奈子さんさぁ、俺、毎日朝の7時半に電話して『愛してるよ』って言うからさぁ、加奈子さんも『愛してるわ』って返して?」
「何で、私まで返さなきゃいけないのー?」
「だって、証明するんだろ?
言ったよな?
加奈子さん、本気で惚れたら照れて好きって言えない人だろ。
ちゃんと返せなくなったら俺の勝ちー」
「えー、何よそれぇ」
「だって絶対に心が動かないんだろ?
だったら減るもんじゃないし、いいだろう?」
「そりゃそうだけど」
そうだけど、何だかおかしい気がする。
ゆう君の顔を見上げると、なんだかひどく優しい顔をしていた。
目を細めて嬉しそうに笑っている。
「じゃ、決まりな。明日から始めるから。
期間は2年間。
それくらい、楽勝だろ?」
「まあね。あったりまえよぉー」
翌朝、7時30分きっかりにかかってきた電話を受けたときは、心臓が止まるかと思ったものだ。
サイアクなことに、ゆう君の低い声は、ちょっと甘くてよく通る。
その声で『愛してるよ』だなんて、寝起きに聞くには心臓に悪すぎる。
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