7/7
前へ
/21ページ
次へ
「じゃあ、何か賭けようか。そうだな……俺が負けたら、これをやるよ」 「指輪? これ、シルバー?」  ゆう君が小指から外して見せたのは、すこし凝った形の指輪だ。 蛇がモチーフらしく、二重に巻きついたその蛇の頭は、自分の尾を咥えている。 素材はつや消しの銀で、ウロコらしい模様も入っていてかなり細かいつくりだ。 「そ。それだったら使えるだろ。俺の小指に嵌ってるやつだから」 「あ、ホントだ。そう言えば、コレ、ちょっと前からしてるよね。どしたの?」 「銀粘土。同じ会社のツレが最近嵌っててさ。 んで、依頼されてる店内の小物とかコレで作ってみるかーなんて話になって、試作したやつ。 小さすぎて小指にしか入らんのよ」 「失敗作だ」  私はそう言ってきゃはははっと笑った。 アルコールがかなり効いてきているかもしれない。 「や、そうでもないよ? 一応形はいい感じになったし。  加奈子さんさ、毎朝何時に起きんの?」 「んー、7時半くらいかなぁ」  だんだん眠くなってきた。 ちょっとだけ机に寄りかかる。 グラスを頬に当てるとつめたくて気持ちいい。 「休みの日は」 「休みの日もー、同じー。 そうしないと普通の日に起きれないもん」  ああ、だめだ。体が崩れてく。  このまま机に突っ伏して眠りたい。 「じゃあ、加奈子さんさぁ、俺、毎日朝の7時半に電話して『愛してるよ』って言うからさぁ、加奈子さんも『愛してるわ』って返して?」 「何で、私まで返さなきゃいけないのー?」 「だって、証明するんだろ?  言ったよな?  加奈子さん、本気で惚れたら照れて好きって言えない人だろ。 ちゃんと返せなくなったら俺の勝ちー」 「えー、何よそれぇ」 「だって絶対に心が動かないんだろ?  だったら減るもんじゃないし、いいだろう?」 「そりゃそうだけど」  そうだけど、何だかおかしい気がする。 ゆう君の顔を見上げると、なんだかひどく優しい顔をしていた。 目を細めて嬉しそうに笑っている。 「じゃ、決まりな。明日から始めるから。 期間は2年間。 それくらい、楽勝だろ?」 「まあね。あったりまえよぉー」  翌朝、7時30分きっかりにかかってきた電話を受けたときは、心臓が止まるかと思ったものだ。 サイアクなことに、ゆう君の低い声は、ちょっと甘くてよく通る。 その声で『愛してるよ』だなんて、寝起きに聞くには心臓に悪すぎる。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加