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彼らの足下は、幾つもの、物言わぬ遺体で埋め尽くされていた。
体中に返り血を浴び、手に持つ武器は血糊で赤々と輝いていた。
人を殺す事に楽しさや喜びを感じた事はない。国王や国民に大きな被害が出る前に、処理するのが彼らの仕事だった。 「隊長。この屋敷にいた兵士達は、全て片付けました」
巨大な槍を双肩に担いだ男が、自分よりも若いであろう男に向かい、言った。 「分かった。あとは、主のミドーリック伯爵か…屋敷内部を徹底的に捜せ。納屋や厩もだ。女中や子供、年寄りには手を出すな」
「承知しました。ユーヤ隊長」
男は一礼すると、素速く動き、その場をあとにした。
ユーヤと呼ばれた男は、腰に下げていた刀の柄を握ると、ゆっくりとそれを抜いた。夜空に浮かぶ三日月の様なその刀は両刃ではなく、片側にだけ、刃があった。それは、東洋の島国で造られた刀だった。
ユーヤはその刀の切っ先を下にむけると、目の前にある壁に向かい、話しかけたのである。
「伯爵。出て来て頂きましょうか。ここにはオレ一人しかいない」
だが、何の反応も見受けられなかった。
ユーヤは面倒くさ気に舌打ちをすると、少々語気を荒げ、 「アンタ、男だろうが!! だったら潔く出て来て、剣で決着を着けようとは思わないのか!?」 この一言が効いたのだろうか。
何の変哲もない壁が音も立てずにゆっくりと開き、中から四人の武装した騎士が飛び出してきた。そして少し遅れ、初老の男が出て来たのである。
四人の騎士はユーヤを取り囲む様に構えた。
「お初にお目にかかる、伯爵。私の名前は、ユーヤ。王国特殊部隊『マッドスキル』の長を勤める者です」
ニヤリと笑みを浮かべながら、ユーヤは自己紹介をした。 「貴様があの暗殺部隊の長?… 馬鹿馬鹿しい。貴様の様な若僧がそんなワケはあるまい!! ワシが直々に手を下す必要もないわ!!」 伯爵は目を見開き、剣の切っ先をユーヤへと向けた。それと同時に、四人の騎士が一斉に切りかかった。だが、それよりも速く、疾風の如き速さでユーヤは動き、刀を振るったのである。
四人の騎士は、あっという間に倒れ込み、死を迎えた。
ユーヤはそんな遺体に目もくれず、刃に着いた血を払った。
「口ほどにもない。貴方は腕の良い騎士を揃えたおつもりだったのでしょうが、所詮はこんなもんだ」
言いながら、伯爵との距離を詰めた。
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