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街外れの宿屋には、夕刻が近づいているという事もあり、旅人が、そこそこ見受けられた。
ユーヤは、宿屋から少し離れた酒屋に入り、宿屋の入り口が見渡せる席に腰を下ろした。
この酒屋は、ユーヤがこの国に来てから、何回か足を運んでいる。酒屋の主人もユーヤの姿を見て、カウンターから出て来た。その手には、この国で一、二を競う酒瓶を持っていた。
「珍しいな。お前さんが来るなんて」 言いながら、瓶とコップをテーブルの上に置く。
ユーヤはそれを横目で見ると、視線を宿屋へ向けた。
「数日前だったかな。アンタの事を聞きに、一人の騎士が来たよ」
「女はいたか?」
「いや、一人だ。ちょっとしか話さなかったが、アンタの事だろうってのはすぐ分かったよ」
酒をコップに並々と注ぎながら、主人は続けた。
「珍しい刀を持っている男って言ったら、アンタしかいない。それにこう言ってたな…」
「『羽根の生えた黒き虎』か?」
主人は少し驚きの表情を浮かべ、
「そうそう。アンタがもしウチに来たら、そう伝えてくれって」
ユーヤが、コップに手を伸ばし、それを口に運ぼうとした時、後ろから殺気にも似た気配を感じた。
「いらっしゃい」
主人が入り口に立っている客に挨拶をする。ユーヤは、その方向にゆっくりと、不自然な動きにならないように体を向けた。
そこには、剣を下げた放浪の騎士らしき人物と、どこかの領家の娘の様な出で立ちをした女がいた。
二人はすぐにユーヤの方に視線を投げてきた。そして、
「主人、ちょっと、店が壊れるかもしんないぞ…」
「はっ…?」
と、主人がお間抜けな返事をした瞬間、ユーヤは座っていた椅子を蹴り飛ばし、今まで座っていた逆の方に飛んだのである。同時に、ユーヤに蹴り飛ばされた椅子は剣を抜いて、切りかかってこようとしていた、騎士の足に当たっていた。 「チッ…!!」
騎士はその椅子を跳ね除けると、一目散に、ユーヤへ向かって剣を振るってきた。
ユーヤは呆然と立ち尽くす主人を突き飛ばし、刀を鞘から抜き、相手の一撃を受け止め、騎士の腹部に蹴りを入れた。 「ぬぁっ…!!」
騎士はそのまま、後方へと飛び、椅子やテーブルを巻き込んで倒れた。
「おい、オレに何の怨みがあるかは知らないが、一般人を巻き込むのは、頂けねぇな…」
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