そばみそ

2/2
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
ひとりで食事をするようになって20年以上になる。 「さみしくない?」 たぶん、ひとりはさみしいと思うから、そういうのだろう。 「ちゃんと食べてる?コンビニやファーストフードとか インスタントばっかじゃだめよ。体こわすよ。 こんど超簡単料理、教えてあげる」 ひとりだと、ちゃんと食べないと思うのだろう。 毎朝しっかりつくる。昼と夕は外食半々だが、 ふだんの炊事は苦にならない。 「犬か猫でも飼ったら?大きいのは大変だから小型犬は?」 犬も猫も飼った。 どれだけ愛しいパートナーかは解っている。 そしてたいていの犬は、支えにはなるが、それ以上にはならない。 結局、自己管理しかない。 生き物を飼うのは旅行が多いので、可哀想だ。 「小鳥は?インコなんか言葉も覚えるし可愛いよ。 2、3日の出張ならエサと水さえ確保すれば心配ないし。 魚は?一週間や10日だってへいちゃらだよ。 水のもの見るのって、癒し効果あるんだって、 あんなのでも、なつくよ。指からエサつつくよ」 ひとり、 はんぱな午後、 老舗の蕎麦屋で、樽の菊正宗の熱燗。 つきだしの蕎麦味噌は、 小皿に小指の先ほどの真ん丸で載せられる。 どうやってこんなふうに丸めるのか、 いつも感心する。 艶々の焦げ茶色。 ねっとりと甘く、 時折歯に当たる炒った蕎麦米が、咲くように香ばしい。 割り箸の先へ、ちびちび取っては、 杉の香の立つ、絶妙の燗かげんの酒を。 ほの昏い店内のテーブル席には、適度の間隔を置いて、 ぽつりぽつりと中年のひとり客が、それぞれ手酌で呑んでいる。 ひとりひとりの黄昏。 「いつまでひとりでいるの?」 いつまでひとりでいるのだろう。 今度越したテラスハウスは、 2階が台所で、対面型の流しの正面に出窓がある。 テーブルと同じだったから、 窓にぴったりつけ外を眺めて食事する。 隣りの素封家の庭の借景の特等席。 メジロ、ウグイス、シジュウカラ、 オナガ、ムクドリ、モズ、ヒヨドリ、 ツバメ、キジバト、スズメ。 池には、 カワセミ、ゴイサギ、ハクセキレイも来る。 テレビや音楽は2階に置かない。 窓が番組。 2階には椅子はひとつしかない。 友達が来たら、盆を並べ、床に直に座る。 ひとりで、ちょうどいい。 今のところ。 さてとりあえず、 「ぬるめの燗を、もうひとつ」
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!