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「ギュギュ!!」
隅からやってきたワイルドラッドがサイクロプスの足に噛み付いた。それによって攻撃の対象が俺からワイルドラッドに変わった。
「ウキュ!!」
サイクロプスが足を大きく振ると、噛み付いていたワイルドラッドは跳ね飛ばされて木に打ち付けられた。サイクロプスは止めを刺そうとワイルドラッドに手を伸ばす。……今なら血識が―――
『…あいつらだって、生き物だ…! 倒すのは、襲い掛かる魔物だけで、いいんだ…!』
今なら血識を使える。が、そうしていたらあのワイルドラッドは助からない……。
「…くそっ!」
俺は剣を手放し、サイクロプスとワイルドラッドの間に割って入った。
「ぐあっ!!」
サイクロプスの大きな手が、俺の体を鷲掴みにした。そのまま高く持ち上げられ、締められていく。
「…あっ、がぁっ!!」
ミシッミシッ、と骨が軋む音が聞こえた。…危険だ。
そんなのお構い無しに締め上げるサイクロプス。…だが、血識を使うには今しかない!
俺は目を閉じて、痛みに耐えながらも想像していく。サイクロプスよりも、大きな魔物…。
『グオオォォォ!!』
俺の血識は無事成功して、サイクロプスの真後ろに紫色の体に金色の鬣の魔物、ベヒーモスが現れた。……西にしかいないAランクの魔物だ。
「ゴホッ、ガハッ!!」
俺は解放されて、木にもたれながら咳込んだ。突然のベヒーモスの出現に恐れたサイクロプスは、俺の体を離して逃げようとする。が、逃がすわけもなく…
『ガァァァァ!!!』
俺はサイクロプスに飛び掛かるベヒーモスをイメージする。そして、俺のイメージ通り飛び掛かったベヒーモスはサイクロプスを食い散らかした。
「…大丈夫か!?」
木に寄り掛かっていた俺に、虎獣人が頭を押さえながら近づいてきた。俺は念のため持ってきていた包帯を袋から取り出した。
「…もう遅いかもしれないが、しないよりはマシだろう。頭を貸せ、包帯を巻く」
「あんたにやってもらわなくても、自分で出来るぜ」
「…そうか」
俺の手から包帯を取って頭に巻く虎獣人。……お世辞でも綺麗に巻けているとは言い難い。
「…あんた、強いんだな。冒険者か?」
「………成り立てだ。魔物との戦いも初めてだ」
知識ならそこそこある。だが、実際の戦闘は今のが初めてだった。……今まで、魔物と戦うことなんて俺の仕事じゃなかったからな…。
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