過去 『ドルク・マグワー』

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「…まさか……いや…。取り合えず、ほら」 ルーツが俺の出した札束から数枚抜き出して、カウンターの犬獣人に渡す。札束に目を奪われていた犬獣人は我に帰り、お金を受け取り、番号札の付いた鍵を手渡す。俺は、先を行くルーツに遅れないように着いて行った。 「……ドルク、服を脱げ」 部屋に着いた俺に、ルーツがそう言う。 「…何をいきなり…」 「お前の傷の状態を見るんだ」 ルーツは俺に歩み寄って、服に手を掛ける。俺はルーツの手を、制止の意味で掴んだ。 「心配するなと言ったはずだ。お前には関係ない事―――」 「うっせぇな、早く脱げ!!」 「……うぉっ!!」 突然ルーツに押され、バランスを崩した俺はベッドに仰向けで倒れた。そのままルーツは、俺の上着を下から捲くり上げる。 「…相当腫れてる。こりゃ、折れてるな…」 「……っ!!」 左の脇辺りを触られ、痛みに顔を歪ませる。他にも数箇所痛む所はあるが、そこが1番重傷のようだ。 「……お前には関係ない。俺の不注意で負った傷だ。だから―――ぐぁっ!!」 「…黙ってろ」 いきなり腫れ上がった部分を強く押され、激痛に声を上げてしまった。…そして、相手を殺さんとする威圧感のある目。俺は何も言うことが出来なかった。 「すげぇ痛むと思うけど、我慢してくれよな」 「…あ、ああ…」 俺はルーツの言葉に返事を返し、来るであろう痛みに備えた。ルーツは目を閉じて、そっと俺の傷に手を触れる。 「―――っ! がぁっ!! あぐっ……!!」 突然、激しい痛みが伝わってきた。…中で、何かが動いている……!! 「…よしっ。これで大丈夫だ」 「…はぁ、はぁ…。何を、したんだ…?」 ルーツが手を離すと同時に、痛みが一気に引いていった。俺は息を荒くしながらルーツに問う。 「俺の血識で、ドルクの肋骨を元の状態に戻したんだ!」 「……ルーツの、血識…?」 誇らしげに言うルーツ。…こいつも、血識が使えたのか…。 「そっ。俺の血識は『操作』。俺が触れた辺りのものを俺のイメージ通りに動かせるんだ」 …つまり今のは。強引に折れた肋骨を動かしてくっつけたという事か。 「…ありがとう。だがこれは、俺がサイクロプスにやられた傷だ。何故お前がそこまでして治す必要がある?」 俺がそう言うと、突然下を向いて目を背けるルーツ。俺は起き上がり捲くり上げられていた服を下ろした。
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