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「案外、起きるの遅いんだな」
「……静かにしろ。他にも客はいるんだぞ」
俺は食堂に行き、ルーツの向かいの席に座る。…周りからの視線が痛い。
「朝食は楽しい方が良いだろ?」
「お前は騒がしいだけだ」
俺の目の前には軽い料理。ルーツが頼んでおいてくれたんだろう。俺は合掌してから、箸を取る。
「…ん、そうだ。ドルクはこれからどうするんだ?」
明らかに俺の料理と比べて、量の多い料理を食べながら、ルーツは俺に向かって聞いた。
「別に目的があるわけじゃないが、ガレールに行こうと思っている。あそこなら、冒険者ギルドの依頼も沢山入ってくるだろう」
別にこれといって目的は無かった。…ただ、自由な生活がしたかっただけ。
「ってことは!? ドルクはいわゆる暇獣人なわけ!?」
「……声がでかい。もっと静かに喋ってくれ」
身を乗り出して俺を輝かしい目で見るルーツ。……何がそんなに嬉しいんだ。
「俺さ、ガレールに家があんだけどさ。そこで一緒に住んでくれよ! なっ?」
頼むっ!! と、手を合わせてまで頼み込むルーツ。……俺としては、とても嬉しい事だ。本来なら野宿する予定だったのだから。……だが…。
「…気持ちは嬉しいが、親がいるんじゃないのか? 弟もいるんだろう? お前一人で決めれることじゃないだろ」
俺は朝食を食べ終わり、箸を置いてルーツを見た。ルーツは下を向いて辛そうな表情をしている。
「…親は、こっちにはいない。弟は……行方不明だ…」
「………すまない…」
沈黙が流れ、この場の雰囲気が悪くなる。……そういう事情があるのなら、一緒に住まないわけにはいかないな。
「…お前の家に、お邪魔してもいいか?」
「…ドルク…! もっっちろんだ!!」
俺の言葉に、ルーツは満面の笑みで答えた。……表情がコロコロと忙しい奴だ。
「そうと決まれば早く行こう! なっ、早く!!」
「お、おいっ!! 引っ張るな!!」
ガタンッと大きな音を立てて立ち上がったルーツに、腕を掴まれて連れていかれた。……忙しくなりそうだな、これは。
「……あのさ」
「なんだ?」
ニルスを出て次の町、アルガードを目指す俺とルーツ。その道中、突然ルーツが俺に頼み事をする。
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