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佐伯りりか…16歳。
いわゆる病気がちな子供時代を送ってきた。世の中のイベントというイベントを病気のために空振りしてきている。
そして、フラストレーションは溜まりに溜まっていた……。
「なんでみんなは良くてりりかはダメなん?」
病室にイラついた声が響きわたった。
「熱があるんだから仕方ないでしょ?それに…」
困り声の年配の女性の声を軽快な関西弁が遮って入ってきた。
「よぅ、りりか!なんや元気そうやな(笑)」
笑いを含んだ声の持ち主に
「純くん!」
「純くんからもゆーてよぜんぜん大丈夫なんやから」
困り顔ふたつが顔を見合わせた。
「おばさんダメなん?」
困り顔2が困り顔1に問いかけた。
「先生の許可がおりないのよ…」
「そうかぁー」
困り顔2は怒り顔1に目を向けた、が、激しい目力ビームに、また困り顔1に目線を慌てて戻した。
「しゃーないわな。おばさん行かなあかんやろ?りりかは僕が見とくから行ってき」
「もぅ、なんでこうなんよっ。今日熱出んでもいーやろ!!」
誰への抗議かわからないが不満は空気を通して青年にビリビリ届いた。
「まあまあ、今日やなくてもまた行けるし」
「何ゆーてんのよ!今日が最終日やからもう観れないっちゅーのよ」
「あー、そうなんやぁ」
収まりそうにない怒りを何とか和らげようと、ムダな抵抗をしたようだ。
「あっ、せや、りりか、今日な、いいもん持ってきてん」
怒り心頭だったりりかの目が、好奇心で少し和らいだ。流石に心得た様子の青年は間髪入れずたたみかけた。
「なんやと思う?」
青年の目はイタズラっ子のようにりりかを挑発している。
「なんやろ」
まだ不満気味の声だが、土産が不満なのでないのは確かだ。
「当てたらあげるわ(笑)」
「何でよ。りりかにくれるんやろ?」
問いかけではない。脅しだ。
「だから当てたらあげるゆうてるし(笑)」
「ヒント」
「ヒント頂戴よ」
もらう割に上から目線の指令が下った。
「うーん、りりかがめっちゃ欲しがってたモノかなあ…」
「携帯⁉⁉⁉」
「携帯なん?純くん⁉」
電光石火の答えだ。
りりかの目はこれ以上ないくらい期待で丸くなっている。
顔いっぱいに広がる手放しの喜びは、青年の方までワクワクさせていた。
「当たり(笑)」
「ほんまに⁉⁉⁉」
青年は自分の荷物の後ろから、小ぶりな箱を取り出した。お馴染みのロゴマークがりりかの目を釘付けにした。
「ほんまや」
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