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別に疑ってる訳ではないだろうが、訳して言えば信じられない!嬉しい!といったところだろう。
「欲しい言うてたやろ?」
いや、欲しくない人はこんなリアクションはしないだろう。
「うん!」
さっきの怒りはどこへ…
「携帯もそうなんやけどな、今日はりりかにネトゲを教えたろ思てな」
「ネトゲ?」
「せや、ネットワークゲームやな」
「なんとなくわかるけど」
「この携帯自体がゲームには最適の機種やから」
店員の受け売りだろう、うたい文句をしたり顔で述べながら、青年は中身を組み立てた。
「これでよしっと」
パチンと裏蓋を閉じると、携帯をりりかに手渡した。
「ここ長押ししてみて」
大きな指先が受話器マークを指差した。
りりかは言われるがままにか細い指先で指定の場所を長押しした。
音楽と画面が鳴り動くといやでも期待感は盛り上がる。
「おぉ、めっちゃ綺麗やな?僕のよりいいやん」
そりゃそうだ、最新機種なのだから。
そう言いながら画面を夢中で見つめるりりかを青年は横から静かに眺めていた。
佐伯りりか16歳。彼女は青年のいとこに当たる。
母親同士が姉妹なのだ。女系の中の唯一の男子が佐伯純一自分だ。
小さい時から腎臓に欠陥のあったりりかは、学校には通うものの、行事事はほとんど参加できずに過ごしてきた。
そのため、歳の近い純一の運動会や遠足、水泳大会などの話を昔から目をきらめかせて聞きたがった。
それは、純一が成人して社会人になっても、慣例事となって続いていた。
今日は外出許可をもらって映画館に連れて行く約束だったのだ。
「純くん、これどうやるの?」
りりかは画面から顔も上げずに問い掛けている。かなりお気に召した様子だ。
「ちょい貸して」
手を差し出したが、まだ自分でやりたいのか、あらゆるボタンを押しながらりりかは四苦八苦している。
「貸して」
渋々といったところか、ようやく携帯を手放すと被さるように画面に顔を近づけた。
「見えないから、どいて」
元来負けず嫌いなりりかは自分に出来ない事が純一に出来ると昔からよく不機嫌になった。
今回もどうやらそのようだ。
「りりかも出来るよ多分ね。でも純くんの方が慣れてるやろ?」
はいはい…。声にならない声が純一の頭の中にこだまする。
りりかの問いを苦笑いでやり過ごすと、携帯の設定にとりかかった。
同じシリーズを使っていたのが幸いして、純一はいかにも機械に強い男の人を演出できた。
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