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暗い路地裏。
といっても街の灯りは既に消え、月明かりで辛うじて路地裏とわかるくらいの……そんな暗闇。
真夜中のそんな場所に似つかわしくない少女がそこにいた。
美しいほどムラの無い金色の髪は肩にかからぬ程で切り揃えられ、それに相反するような黒く大きな眼。
十代半ばほどに見える小さな体は、座り込むことでさらに小さく……そして非力にその姿を見せている。
まるで落ち穂程度のその体を震わせながら、ただそこに存在していた。
真夜中の路地裏が似合うとすれば、猫か酔っぱらいくらいだろう。
しかし、そのどちらでもない人影が少女の前に足を止める。
金色の髪が少しだけ揺れ、少女は目前に立つ人影を瞳だけで見上げる。
「―――か?」
「……」
若く、低い男性の声が聞こえた。
聞き取れなかったこともあるが、それ以前に会話をする力が無いことに気付いた。
「声も出せないのか」
「……」
声だけではない。景色が霞む……。
どうやら少女は、自分で思っている以上に疲弊しているようだ。
若い青年と思える人影は、少女の目の前に屈みこんだ。
―その顔に見覚えがあった―
「テスター……」
その一言を紡ぐと、金色は地面の闇に溶け込んだ。
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