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そして、
『くだらねぇな』
たった一言。
そんな何でもない一言なのに威圧感があった。
王者の風格というのか、何と言うか、こんな人間がいるものなのか。
誰でもこの男に屈してしまうのではないだろうか。
それはここ数年間で十分に感じていたことだった。
この男は、上に立つべきことに相応しい男なのだと。
だけど、これは俺の問題だ。
というか…
「俺、死因は物騒なのじゃなくて、寿命で息を引き取りてぇ」
『当たり前だ。俺以外の手で死にやがったら許さねぇ』
即答だった。
というか話がずれている。
何だお前、属に言うヤンデレというやつだったのか。いや、デレてない。
病んでいるだけだった。
とにかく、俺はそんなの御免だ。
「マスターに迷惑掛けんなよ」
『それはお前だろ』
「無意味に人を殴るんじゃねぇぞ。イライラしてっからって仲間に手ぇ上げるなんて論外だ」
『お前が止めればいいだろ』
「マサキ」
相手の言葉に惑わされたくなくて、名を呼んだ。
遠まわしに行くな、と言われていることくらい理解できる。
まだ側に居たいという気持ちが形になってきそうで嫌だった。
ああ、やっぱりマスターに全部任せておくんだった…なんて思っていない。断じて違う。誰だって自分の身が可愛いだろ。
『場所は』
「…言わねぇ」
『いつだ』
「…明日」
『他の連中には』
「言ってねぇ…頼む」
無言は肯定ととることにする。
これが俺達の会話。
必要最低限のことしか言わない。
でも理解しあっているから何の問題もない。
俺達の会話。
特に感情を表すわけでもなく、口数が多いわけでもないがこれだけで落ち着く。
だけど、
『 』
口数少ない彼の言った言葉。
初めて感情を乗せたその言葉。
瞬間、
俺は通話終了のボタンを押していた。
できれば聞きたくなかった。
脳内で何度も繰り返し再生されるその声。
心地よい声。
聞き馴染んだ声。
頼むから
行くな、なんて言わないでくれ。
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