出会い

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元治元年四月。 暦の上では春になる季節。 しかし肌を掠める風は まだ冷たいものだった。 夜になると外を出歩く者は 少なくなる。 その上ここ数年で京都は すっかりと変わってしまった。 血の流れぬ日はない、 生首の転がらぬ日はない。 今の京都は さながら地獄絵図のようだった。 四条堀川を少し南に入ったこの路地に そんな地獄絵図を 作り上げた者がいる。 今日の獲物は 中年男が三人と若年男が一人。 詳しい素性は知らない。 指令書には書かれているはずだが、 いつからか名前以外は 見なくなった。 見たところで眠れぬ夜が 増えるだけだと、 死に顔が離れなくなるだけだと、 この者、律依は 自分に言い聞かせるようになっていた。 仕事に就いた当初は それが自分への戒めだと思い、 斬る相手の素性に 細かく目を通していた。 しかし血の臭いが 取れなくなった時後悔する。 初めて睡眠が 取れなくなっている事に 気がついた時でもあった。 目を閉じると… いや気がつくと斬った相手の 幻覚を見るようになっていたのだ。 その日から名前以外は 見なくなった。 幻覚を見る頻度は 減っていたが 眠れぬ夜が続くのは 変わっていなかった。 体からの血の臭いが濃くなっていくのが 原因かもしれない。 律依は今日も 全身に返り血を浴びていた。 返り血を避けるのは 不可能ではないだろう。 人斬りとして返り血を 浴びることのほうが 望ましい事じゃない。 その姿を見られれば 言い逃れは出来なくなる。 いくら市民が 出歩かなくなったと言えど、 その分新撰組をはじめとした 幕府の役人達は 見廻りを強化してきていた。 それでも律依が 返り血を浴びるのは、 せめてもの償いのつもりだった。 今出来る精一杯だった。 それが自らを苦しめる血の臭いだと わかっていてもやめられなかった。
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