出会い

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最後の一人を斬り伏せた後、 乱れた呼吸を整えながら 自らの髪を滴り落ちる血を ただ眺めていた。 腰まである髪を高い位置で 結い上げているが、 血のせいでそれは背中に 貼り付いていた。 その髪を伝い流れる血は 藍色の着物の色を変えながら 刀へとつながり足元に 血溜まりを作り上げていた。 いつもならすぐに立ち去るところだが、 今日はそれが出来なかった。 真っ先に自分に斬りかかった若年の男は 死に際に女の名前を呼んだ。 聞きたくなかった。 自分の目的を見失いそうになる。 何のため仕事を続けるのか わからなくなるのだ。 律依はそんな思いを振り払うように 何度か頭を振ると刀を鞘に戻し、 懐から血に濡れた紙を 取り出す。 その紙を辺りにばら撒くと 背を向け歩き出す。 「天誅…随分と滑稽な文句ですね」 数歩進んだ時だった。 背後で声がしたのだ。 反射的に振り返り刀を抜く。 そこにいたのは、一人の男。 律依が撒いた紙を手に佇んでいた。
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