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う、嘘だ…
俺が知ってる琴美は少しふっくらしていて、髪はふわふわで、笑顔が似合う本当に明るい人だった。
なのに何でだ?
ガリガリに痩せこけて、肌にハリもなく、俺の大好きだった笑顔もまるでなし。
脱け殻のようで、少し怖かった。
愛しい人をこんな風に思ってる自分が嫌だ。
でも…
現にさっき素で怖がっていたわけだから反論なんてしない。
どうして?
がちゃっ
映像がパッと変わり、玄関が映し出される。
「ただいま~!」
竜だ!
こいつは…元気みたいだな。
少し安心した。
竜がリビングに向かっているみたいだ。
ドアを開ける前に、竜はなぜか笑顔の練習をしていた。
…理由は何となく分かる気がする。
「お母さん、ただいま!」
「………」
琴美は思いっ切りしかとをする。
前までは竜が帰ってきたら、真っ先に玄関に迎えにいっていたのに…
これじゃまるで竜が見えていないみたいだ。
竜は一瞬悲しい表情を見せたが、また笑顔に戻った。
「ごはん、作るから待っててね!」
そう言ってどこかへ言ってしまった。
え、待てよ?
竜がいつも飯を作ってるのか…?
まだ、8歳なんだぞ?
また映像が変わった。
ここは、キッチンか…
「ぅう………ヒック」
竜、泣いてるのか?
カメラが竜に近付く。
「……ヒッ
な、んで…おと、さん死…んじゃ、ったの……?」
…………っ!
俺のせいだ。
俺がいなくなったせいで、家庭が崩壊したんだ。
琴美から笑顔を奪った。
たった8歳の竜に涙の原因を作った。
俺が知らない間にこんな事になっていたなんて…
龍次の目から一筋涙が流れた。
それを合図に次々と目から涙が溢れてくる。
「うわぁぁぁぁぁあ!!!」
抱き締めてやりたい。
二人を、この手で…
そんな事すらも出来ない。
死ぬことより、
最愛の人との別れの方が何より怖いことを知った。
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