1⃣ さぁ、物語の幕開けだ

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   話の肝要に触れる前に、予備知識として少しだけ聖徳学園のことを説明しておこう。  私立聖徳学園は、幼稚部から大学院までを併せ持つ巨大マンモス校である。  同じ名の冠を持つそれぞれの学校が各所に点在しているのではなく、ひとつの箇所に全ての校舎がある点も珍しいのではないだろうか。  とは言えその敷地面積は広大で、大学とその中の短期大学に隣接している幼等部、小等部、中等部、高等部と全ての校舎の正門は各東西南北に別れ、各々が別個になっている。  因みに高等部の正門は東にあり、そのまま東門と呼ばれていた。  聖徳学園は、宿世財閥が全面的にバックアップしている学校法人である。  元々が祖父の何代か前の会社を興した当主が建てたものらしい。  その元を辿れば、根底の精神は江戸時代の寺子屋にあるんだかないんだか、とじいちゃんは語っていたが、あまり興味のなかった俺は、とある芸人の芸風宜しく、右から左に聞き流していた。  まぁ、歴史は深い。  ――ということだけ理解してもらえれば間違いはない。  聖徳学園が有名な理由のひとつに、その学力の高さがある。  今のご時世、企業が求めるものはコミュニケーション力だというのに、この学力社会は如何なものかとも思うが――。  誰かと自分を比べて優位に立ちたい願望を持つ、何故かそういう心根の人間は少なくない。  俺自身は、所詮そんなものは死んだら役には立たないと常々思っているのだが、彼らにとって進学校というのは自分を誇り、人を見下したいという欲求にとっては必要なものらしい。  ――ま、これは穿った俺の偏った意見であって、純粋に勉強がしたいとか、月華のように単純に制服が可愛いとか、それぞれの志望動機もあるので、一概には言いきれないのだが。  前述した傾向が強い、上流思考――というべきか、慢心が渦を巻くような特徴があることは、否定出来ない事実であると覚えておいて欲しい。  学力と同等に有名なのが、スポーツである。  親友の林道也、月華の兄である月之丞、同じクラスに籍を置く明智宗治。  彼らの全てがインターハイの常連で、道也と月之丞に至っては完全なる特待生で学費と寮費が無料。  元々がうちの生徒である明智も、インターハイで優勝した実績が認められ、今学期から学費が半分になるらしい。 *
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