1⃣ さぁ、物語の幕開けだ

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   聖徳では勉強することは「強制」ではない。  ここではごく「当たり前」のことだった。  進学校の古い嗜みとしてなのか、決められた学年順位と点数は貼りだされるが、実際に自分のやりたいことや、やるべきことがわかっている生徒ほどその結果を気に留めない気がする。  点数ではない。  テストは所詮、自分が何を理解して、どこを苦手とするのかの確認行為の手段であって、本質ではないことを知っているのだろう。  因数分解だの元素記号だの、古典の昔話など。  個人の趣味には必要でも、社会に出たら専門職以外では役に立つことは少ないかもしれない。  しかし、それらに生活の中との共通点を見つけだし、応用し考えていく。  俺にとって「勉強」とは、考えるためのトレーニングに過ぎなかった。  だから、順位がどうであれ一喜一憂はしないが、どうもことが月華に関わると冷静ではいられないようである。 「ふあぁ……」  エレベーターの中で伸びながら、大あくびをする。  ……月華が余りにも可愛いことを言うものだから、食らい尽くすように抱いた昨夜。  寝たのは何時だっただろうか。  いくらほぼ答えを教えたからと言って、勉強しなれてない月華には、疲れた1日だっただろう。  文句を言いながらも、彼女は俺を拒んだりはしない。  それは俺の過去を知る――彼女の優しさだ。  月華の方が我が儘なように見えるが、根底では俺の身勝手さを全て包み込んでくれる。  月華の柔らかさを身体が思い出し、火照るような感覚が甦ってきて、ヤバイっと頬を叩いた。  男の体力と女の体力では違うだろうに、俺が満足するまでちゃんと付き合ってくれていた。  自分で言ったことは自分に返ってくる。  月華に無理なセックスを強いる度、――その都度反省し、次は欲情を解放することを我慢しようと思うのに、全く抑えが効かない。  学力と欲望抑制力は違う次元だということを、地味に学びつつある今日この頃である。  俺も道也同様、しばらく本当の意味での学習が出来そうにない。 *
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