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貴方らしくないと、また言ってしまいそうになった言葉をかろうじて飲み込む。 まるで独り言のようにして漏らされたその呟きに、本当は聞きたい事が山のようにあった。 どうしてあの場所にいたのですか? 貴方は結婚しているはずなのに。 愛妻家と、社内でも名高い貴方が、どうしてあの場所で一人、あんなにも憔悴仕切った表情を浮かべていたのですか? だけど、当然そんな疑問を口に出せるはずもなく。 「君は…その…いつから?」 耳に届いた貴方のその呟きにも、ただ黙って自らのグラスを傾ける俺へと、少し躊躇いがちに掛けられた言葉。 「俺ですか?結構キャリア長いですよ」 あんな場所で会ってしまい、貴方と違って守らなければならない存在があるわけでもない俺には、今更取り繕うべき見栄も嘘もないけれど。 どうやら、本当にまだ完全に認めてやれていないらしいこの人に、あまり赤裸々に語って聞かせてしまうのも気の毒な気がして。 「戸惑いは…ないのか?」 適当に言葉を濁した俺に、だけど貴方は意外にも更なる疑問をぶつけてくる。 「そんなもの、とっくに吹っ切れてますよ。なんなら、俺で試してみます?案外、簡単に迷いなんて吹っ切れるかもしれないですよ?」 それは、何気なく発した言葉だった。 ただ、自分の事は語ろうとせず、そのくせ自分の何がわかるだなどという言葉を投げつけてきた貴方を、ほんの少しだけ困らせたかったのかもしれない。 そんなものは、お門違いの八つ当たりだとそれを理解しながらも、この時の俺の心の中には、ずっと憧れていた貴方のその迷いに付け込みたいという思いがあったのかもしれない。 「君…と…?」 「ええ。俺、口堅いですよ?関係を持ったからって、言いふらすような無粋な真似はしない。さっきも言ったでしょう?俺だって別にカミングアウトしてるわけじゃない。こんな事がバレて、会社に居づらくなるのはごめんですから」
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