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差し出されたのは、桜の木の枝だった。
先端部付近には、開きかけた蕾が、小さな存在を主張している。
「折れてたのを持ってきただけだから、心配しないで」
そう囁く桜良の右手には、小さな切り傷が出来ていた。
「…手、怪我してる」
「ホントだ、…いつ切ったんだろ」
手の甲をペロペロと舐める桜良をよそ目に、芽衣は部屋の片隅に佇む簡素な机へと向かう。
やがて手にしたのは、ウサギの絵がプリントされた絆創膏だった。
「小さい頃に買ってもらったの。…今じゃ使う機会も無いけど」
少し悲しげに言いながら、桜良の手に絆創膏をあてがう。
「本当は消毒した方が良いんだけど、私は持ってないから…」
手の傷口を覆った桃色の絆創膏は、枝に咲く蕾と似ていた。
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