ヤクソク

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 何処に行ってしまったの?  私の傍にいてくれるとそう言っていたのに。目覚めた私の視界に、彼の姿は無かった。  何故一人で消えてしまったの? 貴方は今、何処で何をしているの? 私の足元にだけ広がる赤黒いものは、何を意味するの?  これは血よ。誰のものかは分からない。あの人のものではないと思う。ううん、思いたい。  だってもしこれがあの人のものなら、生きているはずがない。それだけ赤黒いものは広がっているのだ。  ああ、その上で寝ていた私も、赤い。洗い落としたい。でももしもこれが彼のものなら、このままでいい。  護られているような、そんな気分になるから。冷めきっていた心が、暖まるのを感じる。  それに反比例するように私の頭は冷えて、寝る前のことを思い出す。寝る前までいた、彼とのことを。  そして私は、落胆する。彼はもう、いないのだと分かったから。  彼は私を生かすための贄となったのだ。  私という人喰いの化け物に恋し、生かすために。  また私は、人喰いに戻るしかないのか。彼がいないことを自覚したためか、衝動がせり上がってくる。  ガマンガデキナイ。  ヤクソク、マモレ、ナイヨ……。
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