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少し窓を開けると、寒さが鼻を掠める。
俺はギターを持ち、家を出る。
こんな日でも俺は休むことはない。
誰もいない部屋に鍵をかける。
表札には俺の苗字『川嶋』だけが書いてある。
ひとり暮らしを始めて随分経つ。
いつもと同じ道を通って、いつもの場所に向かう。
「あっ拓!」
俺を【拓】と呼ぶ人物はひとりだけ。
「なんだよ。アキ」
「また、傘持ってないじゃん。雨降るって天気予報で言ってたのに・・・。濡れるよ?」
こいつは山本亜季奈。
俺の幼なじみで、今は大学生。
俺の親友の・・・
彼女。
「どうせ濡れるんだから傘なんて意味ないだろ」
「そういう問題じゃないの!前みたいに風邪で倒れたら健が心配するし」
アキの言う、健が俺の親友でこいつの彼氏。
河野健。
健も大学生。
俺の心配をしているようだけど、心配しているのは健こと。
俺の体が心配なんじゃなくて、健が心配するからって理由を俺に言うなよ・・・。
俺はそんな言葉を口には出さず、胸に押し止めた。
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