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『…』
本当は早く助けを呼びたかったけれど
彼のいつになく真剣な表情に圧されて
言う通りにすることにした。
血を多く失った体を支える。
彼は辛そうに話し始めた。
『亜希、俺は助からない…。』
いやだ。
『お前は生きろ』
一人にしないで。
『一緒に死にたい』
思ったまま口にしたら
頭突きされた。
また頭突き…痛い。
私が恨めしい顔で見上げると
彼は少し笑って
『お前が死ぬと…俺が、悲しいだろ。』
もう死んじゃうくせに
なんて俺様なんだろう
一層強く抱き締められて
冷えた温もりに身を委ねた。
『愛してる…ずっと』
私も愛してる。
腕がズルリとぶら下がって
倒れそうになる体をなんとか支えながら横たえた。
貴方の名前、とうとう呼べなかったね。
『おやすみなさい、ノゾム』
私の名前の片割れ
私の希望。
名前を呼ぶのは、これが最初で最期。
触れるだけの口付けは
涙の味がした。
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