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吸う音、吐く音。
あなた。
『それ、美味しい?』
煙を指先に絡めてみる。
冬の吐息みたいだ。
『まぁな』
短い返事。
ちょっと甘えるつもりで手を伸ばしたら
ふい、と避けられた。
『危ねえ、火傷する』
無表情で言い放つ彼、重い空気に耐えられず私はうつむいてしまった。
言葉が出てこない。
頭上で溜め息が聞こえた。
益々何も言えなくなって胸の苦しさだけが増してく。
沈黙。息が詰まりそうだ。
逃げたいと思った時、彼の指が私に上を向かせた。その拍子に頬に冷たい感触がして自分が泣いている事に気付いた。
添えられた手から逃れて涙を拭う。
泣くな、泣くな
強く目を瞑ってみたけれど、涙が止まる様子はない。
彼は何も言わずにいる。
どうしたら良いのか分からなくなってひたすら泣き止めと祈っていたら
ふと
瞼が何かに覆われた。
骨張った指、これは彼の手だ。
指先が私に優しく触れて
拙い想いが溢れ出した。
『好き。好きなの。私はあなたを』
愛しているの、と言う前に泣き崩れてしまった。
なんて不器用なんだろう。
それでも貴方が愛しい。
貴方の傍に居たい。
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