四月九日金曜日夜

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「……って訳で俺。何とかしないと死ぬそうです」 「な、何てこと……」  よろよろと泣き崩れる彼女。  口元を押さえながら、悲しげに眼を細める。  その長い黒髪が、はらりと宙を舞って、しんなりと彼女の肩にかかる。 「そ、そんなことって」 「……しかたないんだ」  俺に、彼女を支える事は出来ない。  もうすぐ死んでしまう人間には、人を支える事なんて……。 「亮介……最後に、これだけは伝えさせて――」  うるんだ目で俺の事を見上げて来る彼女。  そのまま、彼女の腕がそっと伸ばされ…… 「何も説明しとらんじゃないかボケー!」  はげしく突き刺さる彼女のアッパーカット。  ああ、そうか、これが俺の死因か。  幼馴染に暴力を振るわれて死亡。  きっと明日の新聞の隅っこにはそんな文字が躍ってくれることだろう。  さようなら、どこか遠くにいる父さん。  次生まれてくる時はもっと幸せに―― 「お笑いナメとんのかワレ! 今時、いきなり『ってわけで』シリーズが流行ると思っとんのか!」  そのまま、肩を掴まれ、がくがくと前後にゆすられる。  な、何てことだ。  気絶さえさせてもらえないとは……。
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