序章

3/4
8人が本棚に入れています
本棚に追加
/75ページ
思わず言葉が出てしまう、ここにいるのは私一人、だから安心しているのかもしれない。 もう、周りの目なんてどうでも良かった。 生まれつきの茶色がかった髪が頬を触れ、どうせ行きもしない学校の制服に絡まる。 鬱陶しいほどに伸びた髪ですら今は気にかからない。 「また、来たよ……」 私の視線は一点に向かっていた。 高架下の二番目の柱、表からは見えない面を埋め尽くす落書きたち。 その中央には一際目立つ絵、青いスプレーで描かれた少女の横顔。 うつむいて、小さな花を手に持っている。 私はいつもその一点を見つめていた。 物悲しい顔でどこか一点を見つめる少女に惹かれて、ここに来るようになったのかもしれない。 街の人々のざわめき、雑音……それはここには届かない、周りの人から忘れられた場所、私にぴったりだ。
/75ページ

最初のコメントを投稿しよう!