16人が本棚に入れています
本棚に追加
「どうしたんだい?そんな顔をして」
泰久に呼ばれて訪れた道成だが、昨日の事が気になっていた。
「そんな顔をしてはかわいい顔が台無し……」
「泰久、昨日の帰りにな……」
道成は泰久の声を遮った。どうやら話を聞いていなかったらしくそのまま話を始めた。
笛の音と女の歌。それがあまりにも美しかった事。そして女が詠んだ歌の事。
「……なるほど」
「泰久、なにがなるほどなのだ?」
「あぁいや……道成はその歌の意味は判るのかい?」
「もちろんだ!俺だってそんなに無粋ではないぞ!あれは自然の移り変わりを歌った歌なのだ」
道成はかなり自慢げに歌を訳した。
春がすぐ背中まで来ている。私の身に積もっていた雪は解け、水となり地面の雪と混ざってしまうよ
「自分を『竹』に例えて作ったのだろうな」
「まぁ歌はそれほど良いというわけではないがそんな意味だろうね」
「そんな実も蓋もない言い方……それより、俺を呼んだというなら管狐の件、なにか分かったのか?」
「まあね。大体の居場所は分かったよ。」
「おぉ!ではさっそく行こうではないか!場所はどこだ?」
道成は立ち上がった。今にも屋敷を飛び出して行きそうな勢いだ。
「伏見稲荷だよ」
泰久はにっこりと場所を告げた。
最初のコメントを投稿しよう!