春はあけぼの

12/29
前へ
/37ページ
次へ
「どうしたんだい?そんな顔をして」  泰久に呼ばれて訪れた道成だが、昨日の事が気になっていた。 「そんな顔をしてはかわいい顔が台無し……」 「泰久、昨日の帰りにな……」  道成は泰久の声を遮った。どうやら話を聞いていなかったらしくそのまま話を始めた。  笛の音と女の歌。それがあまりにも美しかった事。そして女が詠んだ歌の事。 「……なるほど」 「泰久、なにがなるほどなのだ?」 「あぁいや……道成はその歌の意味は判るのかい?」 「もちろんだ!俺だってそんなに無粋ではないぞ!あれは自然の移り変わりを歌った歌なのだ」  道成はかなり自慢げに歌を訳した。  春がすぐ背中まで来ている。私の身に積もっていた雪は解け、水となり地面の雪と混ざってしまうよ 「自分を『竹』に例えて作ったのだろうな」 「まぁ歌はそれほど良いというわけではないがそんな意味だろうね」 「そんな実も蓋もない言い方……それより、俺を呼んだというなら管狐の件、なにか分かったのか?」 「まあね。大体の居場所は分かったよ。」 「おぉ!ではさっそく行こうではないか!場所はどこだ?」  道成は立ち上がった。今にも屋敷を飛び出して行きそうな勢いだ。 「伏見稲荷だよ」  泰久はにっこりと場所を告げた。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加