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「……狐だけに稲荷……?」
道成の言い様に泰久は軽く吹き出した。
「とりあえず伏見稲荷に行ってみようか。ある刻限まではいるはずだから」
「……ある時間までは?」
泰久は道成に疑問を持たせたまま支度を始める。
泰久が支度をしていると屋敷の奥からバタバタと廊下を走る音が近付いきた。
「道成さまぁー!」
「なん……うわっ!」
呼ばれた道成が振り向くと同時に何者かに抱き付かれた。よく見ると歳は15くらいで、頭の上で高く結ばれた黒髪は足首の長さまである。水干を着ているがどうやら女童のようだ。
(確か昨日も似たようなことが……)
「水桔。道成が困っているよ」
「み、水桔!?水桔は確か猫じゃあ……」
「はいっ!水桔ですっ!道成さまぁー!」
また道成に抱き付こうとした水桔だが、今度は失敗に終わる。
「金衛ぇ…」
恨めしい声を出した水桔は、衿を掴まれそのまま宙にぶら下がっている。水桔を掴まえたのは、白銀の髪を腰ほどまで伸ばした背の高い男だった。
「泰久様、私も共に参ります」
「水桔も!お供します!」
水桔は掴まれたまま手を挙げた。
「それじゃあ二人とも一緒に行こう」
こうして伏見稲荷へと向かった。
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