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「いやじゃ!わしはここから離れん!」
管狐は先ほどからこう言って聞かなかった。道成がいくら言い聞かせても耳を貸さない。
「ではなぜ姫の元へ帰らんのだ!何か理由があるのか!?」
「そ、それは……なんででもじゃっ!」
このように二人でギャーギャー騒いでうるさいことこの上ない。
「しょうがないね……無理やり捕まえて行くしかないかな」
道成と管狐を静観していた泰久だったが、これではらちがあかないと提案した。
「そんな……わ、わしは……まだ……」
にじり寄ってくる水桔と金衛を前にそれでも抵抗しようとしている。
「分かっているよ。ちゃんと理由を言ってごらん」
しかし泰久も鬼ではない。本気で脅した訳ではなかった。
「わ、わしは……」
管狐はそう言うと懐から一振りの篠笛(しのぶえ)を取り出した。
「すごく……寂しそうだったんじゃ。あの女の人は一人で泣いておったんじゃ!じゃからわしは……この笛を吹いて……」
「……あの笛はそなただったのか……」
管狐は涙目になりながら話を始めた。
「夕刻になったら橋の上に必ずおる。だから……だからわしは……あの人があそこにおるまでは……」
ぎゅっと篠笛を握りこんだ。女のことをよほど哀れと思っているのだろう。とうとう涙をひと雫こぼしてしまった。
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