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「貴女の大切な人はもうここにはいないのです。ですから貴女も、もう行きなさい。大切な人があちらで待っておられますよ」
泰久はそう言うと祝詞を上げる。すると女は薄く光を帯び、ふわりと浮きあがった。閉じた瞳からはもう涙が溢れる事はないだろう。ゆっくりと天へと昇って行く。
「……二人が逢えると良いな……」
「そうだね……」
空にはすでに無数の星が光を放つ。泰久は空を見つめ、女が夫と出会えるように、そして来世でも一緒になれるようにと願った。
「……さて、私たちも帰ろうか」
「ちょっと待て!管狐の用は終わったのだから、早く姫の所へ連れて行った方がよいのではないか!?」
「ははぁ……なるほど……道成は姫の所に早く行きたいのだね?」
泰久の顔はにやりと笑っているが道成には暗闇のせいで見えていない。
「はぁ!?」
「夜の逢瀬を邪魔するほど私は無粋ではないよ」
「お、逢瀬…。や、泰久ぁ!!」
泰久には見えないがきっと道成の顔は真っ赤になっているだろう。
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