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何度己に言い聞かせても、期待は裏切られた。
すでに親兄弟は諦めていた。戦が終わって一年。帰ってこぬならもう……。
しかし女は必ず生きていることを信じた。何か理由があって帰ってこれないのだと。
それから女の旅が始まった。この時にはもう女自身、夢でしか夫の顔を思い出す事は出来なくなっていた。
とても辛い旅だ。それでも女は男に会いたい一心で旅を続けた。
しかし女一人で人を探すことは、雪原に落とした涙の一滴を探すことのように難しい。
人のつてを頼りながら、なかなか見つける事のできない夫を必死に探した。
しかし女の体力も限界に近付いていく。体は疲れ果て、服はボロボロ。都を目の前にしてついに女は力尽きた。
濁ってゆく女の視界には、もう夫の顔は写らない。
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