春はあけぼの

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「金衛殿?」  道成が金衛らしき声がした方を振り返って見たが、誰一人そこにはいない。  辺りを見渡すが人影がなく、床を見ると文箱と一緒に白蛇がいた。 (ま、まさか……) 「あぁ金衛ありがとう」  泰久は立ち上がり文箱を右手で掴み、左手に白蛇をからませた。 「金衛の姿が見たいと言っていただろう?」 「確かにそうなんだがな……」  姿を変えるのは別に金衛が喋っている時でなくても良かったのだ。金衛へのいたずら心もあったはずだ。  泰久のにっこりとした笑顔がそう物語っている。 「……姫の所へは昼に伺おうか」  泰久が文を広げて言った。 「お、おぉ昼だな」  泰久の言葉を聞いて道成はなぜか背筋を伸ばす。 「どうしてそんなに堅くなっているんだい?さっきはあんなに早くしろと言っていたのに」 「あぁ。なんというか……」  姫の目の前ではないにしろ、自分勝手な行動を取ろうとしたのだ。実際に会うとまた失礼なことをしてしまうのではないかと、道成は緊張している。
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