春はあけぼの

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「大丈夫だよ。前は何とも無かったのだから。姫もそんなにお心が狭い人ではないよ」  泰久は目を細めて笑った。その顔は優しげで、励ましに道成は心を落ち着かせることができた。道成も笑い返す。 「そうだな。よし!では行こうではないか!」 「その前に昼ご飯を食よう」  道成の勢いは泰久によって根元から折れた。 「みずきー。支度をしておくれ」  泰久は庭で遊んでいた水桔に声をかけた。水桔は主人の声を聞き、笑顔で近付いてくる。 「道成の分も頼んだよ」 「はい!」  道成の名前を聞いて、凄く嬉しそうに返事をした。 「あのっ!道成様。落雁があるんです!……道成様は甘い物はお食べに……」  落雁(らくがん)とは砂糖を水あめで練り上げ、菊や花の型で作るお菓子だ。  水桔は上目遣いに尋ねてくる。 「あぁ、俺は食べれるぞ」 「本当ですかっ!じゃあ!ご飯の後ご一緒に食べても……」  今度は泰久に尋ねた。水桔はかなり必死らしい。目をウルウルとさせている。 「いいよ」  その姿が余りにも可愛いらしくてくすくすと泰久は笑う。許しをもらった水桔は有頂天でその場を後にした。 「水桔は余程道成が好きなのだね」 「す、好きなのか……」  くすくす笑う泰久の横で道成の顔はみるみる赤くなってゆく。
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