春はあけぼの

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「く、管狐?」  管狐の苦しそうな様子に道成は狼狽している。 「い、言えん……」  絞りだすように必死に言った。牛車が大きく揺れると、額の汗は顎まで流れる。 「…………少し急いてしまったかな。すまないね管狐」  長い沈黙のを破ったのは泰久だ。冷たさはなく、いつもの泰久へと戻っている。 「姫に直接伺えば良いことだからね」  両端を持ち上げた口元を扇で隠す。どうやら管狐には主の名を言えぬよう何かの「力」が掛けてあるらしい。名を言おうとすればするほど、それは口から出にくくなる。  もしかすると管狐の体に激痛が走るものかもしれない。それは術者次第だ。 「じゃが、雅子殿は何も関係ないのじゃ!姫様は悪くない」  管狐は眉を寄せ首を振った。雅子を庇う姿はなんとも痛々しい。 「管狐……お前は女性に優しいのだね」  泰久の表情はそんな管狐を慈しむように優しいものだ。そっと頭を撫でてやる。 「ちゃんと話を聞くから大丈夫だよ」 「う、うむ……」  管狐は大袈裟に頷いた。ほんのりと赤い顔を隠すかのように。 (それにしても……)  道成は思う。 (水桔といい、管狐といい……)  泰久をじっと見る。何か心に詰まるものがあるらしい。 (子供の扱いに慣れている……本当は隠し子などがいるのではないか……?) 「どうしたんだい?道成」 「いや……」  泰久からさっと目を逸らした。
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