春はあけぼの

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 泰久と道成、そして管狐は再度左大臣家の門をくぐる。前にくぐった時とは違う、心にいろんな疑問を抱えての訪問だ。 (ただの探し物だと思っておったら……)  正直なぜこんなことになってしまったのかと道成は呆れている。  管狐を見つけて、雅子の所へ連れてゆくだけで今回は終わるはずであった。それが何故か彷徨う女性を救う事になってしまった。  しかも、これから更にやっかいな事になりそうだ。 (泰久に面倒をかけてしまったな)  ちらりと泰久を見る。当の泰久は門をくぐってから「桔梗の君」へと雰囲気を変えていて、微笑をたたえたその顔からは本当の感情など読み取れる筈がない。  泰久は静かに通された部屋へとゆく。管狐は堅く口を閉じている。道成はこの時から無駄に喋らないことにした。  三人がいる部屋に沈黙が重くのしかかる。 「まぁ……こんなに早う見つけて下さるなんて」  この沈黙を破ったのは泰久達の到着を聞いた雅子だった。 「管狐が分かりやすかったので早くに見つける事ができました」  微笑のまま泰久は答える。 「この広い京でたった三日の内に探すことはなかなかできることではありません」 (雅子殿……?)  雅子はくすくすと笑っているが、道成はその雅子に何か違和感を感じた。雰囲気が冷たいような、黒いような……
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