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「夢……ですか」
泰久はすっと目を細める。人の夢に現われることなど誰しも出来ることではない。
「その方は名前を名乗っておりませんでしたか?」
ここまで話を聞いてもまだ誰のことなのか、泰久は分からない。それほど急で、予兆がなかったのだ。
「残念ながら御名までは……ですが、『かんこう』と呼べば泰久どのは分かると……」
「かんこう?……管公っ……!」
泰久はその通称を聞いて頭に思い浮かんだ人物がいた。「管」の姓がつく人で人の夢に易々と出てこれるのはその人しかいないはずだ。管狐の体がぴくりと動いた。
「……雅子様、少し長居をしてしまいましたね。」
先程の驚きからすぐに平静を取り戻す泰久は、笑顔で雅子に語りかける。
「もうよろしいのですか?」
「えぇ。あとは私の方でなんとか……あぁ、それから管狐は管公殿の言うとおり雅子の所にお預けいたします」
「っ!じゃが……」
「管狐。雅子様の身の回りの世話をするのだよ。よろしいですか?雅子様」
「もちろんです。ずっと側に付いてもらいますね」
雅子は快く承諾した。頬が薄紅を差し、にっこりと微笑んでいる。どうやら管狐のことを気に入ったらしい。
「では帰ろうか、道成殿」
「う、うむ……」
二人は同時に立ち上がった。雅子と対面して道成は初めて喋った。
「道成様」
出ていこうとする道成を雅子が呼び止めた。
「は、い……」
その道成はあまりにも緊張していた。
「あまり堅くなりすぎですよ。とのがたであればもう少し堂々としていればよいのに。多少の無礼くらい、そのお姿ならいくらでも許してあげれます」
雅子はにっこりと笑った。その笑顔はどことなく、いたずらっぽく笑っているように見える。
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