梅雨は雨

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「そういえば、同じ日にもう一人初参内をする人がいるそうですよ」  木深は軽く沈んだ空気を払拭するように、やや明るめに話を切り替えた。 「あぁ、そうだったね……」  しかし木深の気遣いも空しく、泰久は全く興味がないというような風だった。 「武官なのだろう?さぞかし体付きもいいのだろうね」 「さぁ、どうでしょう?お会いしてみれば分かりますよ」  木深の言葉に、泰久はまた大きく溜め息を吐いた。主の様子を見て木深は呆れている。しかし、これは仕方が無いことだとも思っている。父親が陰陽頭をしていれば、必ず息子の泰久に期待が重く伸し掛かる。誰よりも修行をさせられるのは当前のこと。それが泰久の才能か、誰よりも力を持った時には兄弟弟子から孤立してしまった。式神である木深以外に誰かと喋ったのは何日も前だ。 「あぁ……退屈だ……少し寝るよ」  そう言うと泰久はごろんと床に横たわり、目を閉じた。木深は泰久にそっと袿(うちき)を掛ける。  袿は女性が着る衣だ。いつからか、泰久が側に置くようになっていた。滅多に会わぬ母を思ってか、逢瀬の時の名残土産かは式神である木深は特定する術を持ってはいない。 (この方は……深いところまで寂しさをお持ちなのだろうか……)  袿に絡む白檀の香りに泰久は深い眠りへと着いた。
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