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暗闇の中、泰久は何かを見つけた。
それは小さくうずくまっている童だった。
泰久はすぐ泣いているのだと気が付いた。そして、童が来ている水干に見覚えがあった。
――これは、私だ――
小さく小さくうずくまり、たった一人で泣いていた。
「な……も……いら……い……」
ふいに童は泣きながら口を開けた。しかし泰久の耳までは届かない。
それは、童が己自身の心に刻み混もうとしているかのようであった。
もう一度童は言った。今度ははっきりと泰久の耳にまで届いた。
「なにもいらない……」
童の言葉に泰久ははっとした。その言葉が何に対してのことなのか、泰久は分かっているからだ。
そして本当は求めているのだと。
そっと童に手を伸ばす。その消えて無くなりそうな体をなんとか守ってあげたい。悲しみから救ってやりたい。
いろんな想いが頬を伝って流れ落ちた。
しかし、いくら掴もうとしても童の体に触れることができない。
必死に掴もうとしても掴むのは空気だけ。
――私は、自分自身も救う事ができないのか――
愛情も友情も楽しみや嬉しさも。本当は欲しいのに、それをねだる事さえできなかった。誰かに頼る事もできないこの世界をどれほど憎んだことか。
だから一人で歩いてゆくしかないのだと、泰久は幼いながらにそう決意した。
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