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「やっ、泰久!」
「はいはい、もう笑わないから」
いつものようなやり取りが泰久の気を休めていた。正直この三日間はほとんど気を落ち着けることがなかった。眠ってはいるが、神経を尖らせているような感覚。己の力をほぼ最大限に使えるように引き出していたのだ。
「――さて、道成。来て早々で悪いのだけれど、このまま庭の方に周ってもらえるかい?」
「庭だと?それは構わないが……」
急に泰久がそんなことを言った。意外な言葉に道成は戸惑った風だった。
「とりあえず場所を移すだけだよ。それから、また色々と動くから。火絃、道成を庭に連れて行ってくれないか?」
「あ、いや大丈夫だ。俺一人で行ける」
正直、女と二人で並んで歩く事に慣れていないのもあり、道成は泰久の申し出を断った。
「そうかい?じゃあ頼んだよ。道成が来る頃には私も着くはずだから」
「分かった」
道成は頷いて庭の方に向かって歩いていく。
数歩進んだ後で道成は泰久達がいた所を振り返ってみた。
(なんだ?あれは……)
火絃がいた所がうっすらと赤くなっていたのだ。それは薄絹をなびかせたものというか、光の残像というべきか。火絃が通った道筋にはこの赤い光の帯が漂っていた。
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