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(一体この違いはなんなのだ!?)
道成は驚きを通り越して呆れていた。
さっきまで全くやる気のなかった泰久だが、左大臣宅の門を通ったとたんに雰囲気が変わってしまっていた。
涼やかな表情と全体から漂う凜とした空気は噂と何ら違わない。今の泰久に歌など読ませたら、老若男女の誰もが心を奪われるだろう。
「ほんに桔梗の君とはよく言ったものですなぁ。泰久どの」
左大臣家の姫、雅子(まさこ)はコロコロと笑っていた。頬はうっすらと薄紅が指している。歳の頃は十七、八くらいだろうか。今が盛りと満開の牡丹の花のような美しさを持っている。
「なんの。姫の美しさには桔梗も色あせましょう。是非とも姫の手に摘み採られたいものです」
(はて、摘み採られたいとは?)
道成には雅子と泰久の会話が全く掴めていなかった。
武家の家に育った道成は社交のなんたるかがいまいちよく分からない。こういう場合はボロを出さないように黙っておいた方がいいと日々の経験から学んでいる。
「それで、雅子様はこの泰久めに何を探させますか?」
泰久は雅子が機嫌を損なわない様にさり気なく本題を降った。そのさり気なさにも道成は「この男が!?」と驚いた。どうにも見つかりませんのでほとほと困っておるんです。」
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