きみの呼ぶ声*A*

1/2
前へ
/11ページ
次へ

きみの呼ぶ声*A*

「じーん」 「‥‥。」 「じーん!」 「‥‥‥。」 「仁ってば!」 「ん~‥」 「遅刻しちゃうよー」 「‥うん」 「こら、起きなさい!」 シーツにくるまってぬくぬくとした温かさに浸っていると、名前を呼ぶあいつの声。 それでも寝起きの悪い俺は粘ってたんだけど一気にシーツを剥ぎ取られたら勝ち目ねーわ。 怠いのを必死に我慢しながらベッドから渋々起き上がる。 さっきからずっと名前を呼んで俺を起こしてくれていた愛しい恋人は、いつの間にかリビングへ。 「んあー‥だり」 「ご飯食べなよー」 右目擦りながら俺も後を続いてリビングに出ると、テーブルにはきちんと並べられている朝食らしきものが。 こいつの作る料理は美味いからなー とか思いつつ、箸やらコップやらをテーブルに置いて椅子に座ったのを見計らって俺は後ろから抱き締める。 朝風呂でも入ったのかな。 すげー良い匂いすんだけど。 「おはよ。」 「はいはい分かったから食べなさい」 「冷たくね?」 「‥」 ‥何か怒ってる? とは聞けなかった。 何となーく察しはつくからね。 まあ、時間経てば期限も直るだろうと俺も大人しく椅子に座って両手を合わせる。 「いただきまーす」 いつもより元気良く響かせた声も空しく。 朝食を作った肝心の張本人は相変わらず暗いままで。 ちょ、何か背後から黒いオーラ見えてんだけど。 なーんて言ったら怒るんだろーなー 俺は恐る恐る顔を覗き込んでみる。 「‥おーい」 「何」 「や、何か元気ねーから」 「そう?」 「う、‥うん」 「だって仁が」 「んあ?」 「毎回そうでしょ?」 「へ?」 「何回起こしても」 「‥」 「毎回起きないし」 「‥」 「ひどいよ!」 「え、ちょ」 「寂しいのに!」 「‥‥‥‥は?」 黙って話を聞いていれば、急にキレだして急に可愛いことを言い出す。 や、俺が起きないから怒ってんのは分かってるけど‥ 寂しいって。 こーいう時に反則だろ。 心なしか顔が赤く見えんのは俺の気の所為‥じゃねーよな。 「寂しかった?」 「‥」 「俺が寝てる時」 質問しても頷くことはない。 それでも俺は続ける。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加