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秋穂さんが部屋に入ってきた。秋穂さんは俺の顔を見るなりこう言った。
「具合悪い?」
人を撃った光景が鮮明に蘇った直後だったからあまり気分は良くない。
「悪いっていうか、優れないというか……」
曖昧な返事で返してしまった。
「悪いと優れないはほとんど変わらないよ。ってか、顔色悪いよ」
気がつくと、秋穂さんは俺の隣に座っていた。あまりの近さに俺はドキドキが止まらなかった。
あまり心配は掛けたくない、そう思った俺は本当のことを打ち明けようと決心した。
「実は……、酒場でのことなんだけど……」
やや小さめの声で俺は言った。
「うん。それで?」
秋穂さんは酒場でのことをすっかり忘れているかのようだった。
「俺、初めて人を撃ったからそのことが非常に心残りで……。なんかこう、胃がキリキリ痛むというか……」
すると秋穂さんはこう答えた。
「人を撃つってことは相手に痛みを与える。相手を傷つけることよね。私も最初は誠のように良心の呵責に苛まれた。でも、よく考えたら誠は正当防衛でしょ?あの男達は私達の命を狙っていた連中だった。もし、あの時誠が撃ってなかったら私は死んでいたっていう可能性もあるの。あなたはある意味命の恩人なのよ」
俺が?命の恩人?そんな馬鹿な。
俺が撃とうが撃つまいが結果は変わらなかったはずだ。
第一、俺は一人しか撃っていない。
それなのに俺は秋穂さんの命を救えたというのだろうか?
「本当に正当防衛ですか?」
念のために俺は訊いた。
「ええ。もちろん。だからそんなに責めたりしないで。ってか、誠が撃った人は死んでいないよ。私、確認したんだから」
秋穂さんと話しているうちに幾分気分が楽になった。
「ありがとう。秋穂さん」
何気なく俺はこの言葉を言った。
すると、秋穂さんの顔がほんのり赤くなっていた。
「秋穂さん?大丈夫ですか?」
俺は心配になって声を掛けた。
「私、あんまり“ありがとう”って言葉を言われたことが無かったの。だから突然言われて嬉しくなったの。まさか、誠に言われるなんてね」
照れくさそうに秋穂さんは言った。
この時間が続けば……。“黒い星”が心底憎かった。
手段を選ばぬテロリストは今も俺と秋穂さんの行方を探している。
何としてもこの戦いを終わらせたい――。
そんな気持ちが俺の心に徐々に現れ始めているのを自覚した。
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