155人が本棚に入れています
本棚に追加
それから電車に飛び乗った私はたまたま空いていた席に座り、向かいに座っていた誠を見た。
あの時の誠は理由は分からないが、悲しそうな表情をしていたことを覚えている。
そして、男に銃を向けられ私はすぐに誰かを人質にしてこの場を立ち去ろうと決めた。
誰でも良かった。その場から逃げられれば。でも、選んだのは誠だった。最初は深い意味など何も無かった。
けど、今にして考えてみればあれも運命だったのかもしれない。なんて思ったりする。
と、二階から誠が降りてきた。誠は私の存在に気がつくと笑顔でこちらにやってきた。
「秋穂さん、何してるんですか?」
少し驚きながら誠は訊いてきた。
「いや、考え事しててね。誠こそどうしたの?」
誠はソファーに腰掛けてきた。
私と誠は向かい合わせに座った。
「いや、秋穂さんが下にいることを思い出したから話そうかなって思って」
なんか誠が積極的になっている気がしてきた。最初の頃より確実に。
「実は私も上に行こうと思ってたの」
嘘ではなかった。誠が下に降りていなければ、すぐにでも2階の寝室へと向かおうと思っていたところだった。
「そ、そうなんですかぁ。いや奇遇ですね。ハハ」
誠は爽やかな笑顔をこちらに覗かせた。
「で、誠は私に何を話そうと思ったの?」
私が切り出すと誠は急にそわそわし始めた。何を言おうと思ったのだろう。
最初のコメントを投稿しよう!