ちぃが風邪をひいた日

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ちぃが風邪をひいた日

「けほっ、けほっ…」 朝方に僕はちぃの咳と寝返りで目を醒ました。昨日から体温が高かったちぃは、どうやら風邪をひいたらしい。ずり落ちた布団をくわえて、かけ直す。 「ありがとう礼於。」ちぃは赤い顔を向けて笑う。何だかとても辛そうだ。 ちぃが辛いのは嫌だけど、僕は少し嬉しい。何故なら今日はちぃが学校へ行かないから。 今日はずっとちぃと一緒にいられる。 僕は尻尾が揺れるのを押さえきれず、隠すように布団に潜り込む。 こんな時、ママがいてくれたらちぃはもっと甘えられるのにな…。そんなことを考えながら、うとうとする。夢の中で、おじいちゃんとちぃとお花畑を走り回った。 お昼過ぎに目を醒ますと、ちぃはすやすやと寝息をたてていた。大分熱は下がったみたいだ。 ちぃの顔を眺めながら僕はいいことを思いついた。そうだ!おじいちゃんのところへ行ってちぃのためにお花をつんできてあげよう。起きたらちぃはきっと喜んでくれる。 僕はこっそり布団を抜け出して、河原へと走る。一人で外に出掛けたことなんかないけれど、ちぃの喜ぶ顔が見たくて、僕は必死に河原を目指す。 河原につくとおじいちゃんが迎えてくれた。「おや、今日は一人かい?」 尻尾を振って挨拶をすると、僕はちぃの好きな白い花を摘みに河岸へ行く。 口で根元を咬みきって花を摘んでいく。ちぃがお花を見たらきっと喜んでくれる。頭を撫でてもらえるかな? 夢中になってる僕の足元がグラッと揺れた。 「……?」 一瞬のことだった。花を摘むのに夢中で僕は河に落ちてしまったのだ。そう気付いて必死で足を動かすけど、流れに巻き込まれていく。 「礼於!!」 遠くでおじいちゃんが僕を呼ぶ声がする。 せっかく摘んだお花が一緒に流されていく。 花…ちぃのお花が…。 水をかきわけながら僕は花をくわえようと必死に首を伸ばす。けれど容赦なく花も僕も流されてゆく。 もうだめだ…。 おじいちゃんが河に飛び込むのが見えた。 どこか遠くでちぃが泣きそうな声で僕を呼ぶのが聞こえた気がした。 ちぃ…、ちぃ…。 頭の中で僕は何度もちぃの名前を呼び続けていた。
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