199人が本棚に入れています
本棚に追加
ちぃのママ
河に落ちた後、僕は風邪をひいてしまった。しばらくは辛かったけど、ちぃがずっと傍にいてくれたから、何だかぽかぽかした気持ちだった。
僕の風邪も大分良くなった日曜日の昼下がりのこと。
家の前に車が止まったことに気付いた。
この家にはお客さんなんて滅多に来ない。
チャイムの音にちぃが返事をして出ていく。僕はちぃの傍にピッタリくっつく。
「ちはる…。元気にしていた?」
ちぃに話しかけたのは綺麗な女の人だった。
ちぃは目を大きく開いて黙り込んでいる。
「ちはる?ママのこと忘れちゃった?」
その女の人はそう言ってちぃに触れようとした。
その瞬間ちぃはびくっと肩を震わせ硬直する。
「あなたはママなんかじゃないわ!」
そう言って後ずさる。
ちぃの言葉を聞いて優しそうな笑みを浮かべていた女の人は、表情を変えた。
「相変わらず可愛くない子ね!」
そう言ってちぃの髪の毛を掴み突き飛ばす。
僕はびっくりした。これがちぃのママ…?
だってママは優しくて温かい人だと思っていたのに。
倒れたちぃの腕からすり抜け僕は、ちぃを突き飛ばした腕に噛みつく。ちぃを傷つける奴は許せない!
「何よ、この犬!!」
キャイン!
僕は壁に思いきり叩きつけられた。
「礼於!!」
頭がクラクラしたけど、それでも僕は向かっていく。
だってこんな人がちぃのママだなんて…。
こんな人がちぃの逢いたがっていたママなの…?
小さな僕を無視して女の人はちぃを掴みあげた。
「今度私が来るまでにこんな犬捨てておきなさい!」
そう言うと、不愉快そうに僕を睨みつけドアを乱暴に閉めて出ていく。
ちぃは痣になった頬を押さえながら僕を抱き上げる。
「礼於…。大丈夫?」
僕は少し頭が痛かったけど元気に尻尾をふってみせる。
「あんな人…。ママじゃない…。」
ちぃは小さく呟いて、僕の耳を撫でながらドアを見つめ続けた…。
最初のコメントを投稿しよう!