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授業が終わると、ちぃが僕たちの方に駆け寄ってくる。
「おじいちゃん来てくれてありがとう。礼於もありがとうね。」
ちぃが嬉しそうな顔をするから、僕の尻尾はめいいっぱい揺れる。
すると女の子たちがおずおずと寄ってくる。
「これが礼於くん?ちはるちゃん、触ってもいい?」
そう言って僕の傍に寄ってくる。私も!と周囲に女の子たちが集まってきた。
ちぃは僕をちらっと見る。僕は尻尾でいいよと合図をする。
周囲はとたんに賑やかになる。
ちぃはすごく嬉しそうに、僕について話をする。おじいちゃんも何だか嬉しそうだ。
学校が終わり帰り道に着くまで僕とちぃの周りから人がいなくなることはなかった。
帰り道でちぃは笑顔とともにおじいちゃんにお礼を言う。
「ありがとう!参観日がこんなに楽しかったのは初めてよ!」
おじいちゃんもとても満足そうだ。
おじいちゃんの住む橋の下に近付いた時、僕らの目の前に男の子が数人現れた。
「おい、ちぃ調子にのるなよ。」
睨みながら近付いてくる。
「知ってるぞ!そいつだっておじいちゃんなんかじゃないじゃないか。橋の下の乞食のくせに!」
男の子たちは僕らを取り囲む。
おじいちゃんはちぃと僕をかばいながら男の子たちに話しかける。
「人にはいろんな事情があるんだ。知らずに傷つけるようなことを言うもんじゃない。」
「何だよ!乞食のくせに!」
投げる石がおじいちゃんに当たる。
僕は思いきり吠えて飛びかかろうとした。
しかし、おじいちゃんが僕を抑え込む。
「礼於、いつでも牙を剥けばいいわけじゃない。今ここでお前が彼らを傷つければ、明日からまたちぃは酷い目に合うだろう?本当に大切な人を守りたいなら簡単に牙を剥くな」
僕の耳元でささやく。
僕はちぃを守りたい。でもね、おじいちゃん…。
僕はおじいちゃんも守りたいんだ。
悔しい…。
悔しい……。
「礼於、お前の牙はそんなことをするためにあるんじゃない」
繰り返しおじいちゃんが呟く。
石とともに笑い声が聞こえる。
「もうやめて!!」
ちぃが前に飛び出す。
「私のせいで礼於やおじいちゃんが傷つくのは嫌。」
ちぃの背中を見つめる僕にちぃの呟きが聞こえた…。
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