199人が本棚に入れています
本棚に追加
生まれてすぐに、名前もつけられずに捨てられた。
詳しい理由はわからない。ただ、僕の両耳が茶色いせいだと後から知った。
僕のような毛色の犬はブラックタンと呼ばれているらしい。だけれど他の兄弟と違って僕の耳だけが茶色かった。スタンダードじゃないとか、コンテストには出られないとか、僕自身にはさっぱり分からない言葉を繰り返し、周囲の人間たちは僕を箱に詰め込んだ。
5匹いた兄弟のうち、すぐ上のお兄ちゃんだけが僕と一緒に詰め込まれた。
病気にでもかかっているのか、小さく丸まって動かない。どうやらそれが原因で僕と一緒にされたらしい。
ママはどこに行ったんだろう。
僕を示す名前は3桁の数字。
ママがくれた名前はない。
しばらくして、ガラスケースに入れられた。ここで僕らは値段をつけられ、売られるらしい。
他のこたちは必死で愛想を振り撒いている。お兄ちゃんは元気がない。顔を舐めても目を開けない。
ねぇ、ママ。僕の耳が茶色だから、僕は名前さえもらえなかったの?
コンテストになんか出られなくたって、ママや兄弟と一緒にいられたら良かったのに…。
「誰か親切な人に名前をつけてもらってね」
そう言って目をそらしたけれど、僕はそんなまだ見ぬ誰かよりママに傍にいて欲しかったんだ…。
少しずつ小さくなってゆくお兄ちゃんの呼吸。
誰か僕たちをこのガラスケースから出して。
僕は目一杯の愛想を振り撒いた。この場所から出るために。
最初のコメントを投稿しよう!