それでも君が好き

1/1
前へ
/66ページ
次へ

それでも君が好き

「礼於、動いちゃダメ」 僕に必死に訴えながらちぃはクレヨンを握りしめている。 今日の宿題は「家族」の絵を描くこと。 ちぃは家族として僕を描いてくれている。 それが何だかくすぐったくて、照れくさくてじっとしていられない。 しばらくスケッチブックと格闘していたちぃが、「できた!」と叫んで僕に自慢気に絵を見せてくれる。 ちぃは絵を描くのがひどく苦手。茶色く塗られた両耳でかろうじて僕だってわかる。茶色い耳で良かったなんて初めて思う。 喜びを尻尾で一生懸命表現する。 ご機嫌なちぃはその絵を持って僕と散歩に出掛ける。ちぃの仲良しな橋の下に住むおじいちゃんに見せに行くのだ。 ご機嫌で歩いていたちぃがピタリと足を止める。 「あ!いじめられっこのちぃだ!」 数人の男の子がちぃを見つけて取り囲む。 ちぃは絵と僕を抱えて後ずさりする。 「ちぃが変な耳の犬連れてるぞ」 笑いながらじりじりと寄ってくる。 「礼於は変じゃないもん!」 泣きそうになりながら、それでもちぃは僕をかばう。 こいつらがいつもちぃを傷つけてるんだ。 僕は悔しくって、ちぃの腕の中から飛び出した。 向かって行こうとする僕に石が容赦なく投げられる。 「礼於!!」 僕を捕まえてお腹の下に抱えてうずくまる。石がちぃの額に当たり血がにじんだ。 離してよ!ちぃ!こんなやつら僕が追い払ってやるから! 精一杯吠えてちぃに訴えるけど、ちぃは僕を離さない。 「二度と学校に来るなよ!」そう言い放って男の子たちは去っていった。 ちぃの描いた絵が踏みつけられてぐしゃぐしゃになっている。 ごめんね…。僕の耳のせいだ…。 涙で視界がにじんだ。 そんな僕に気付いてちぃが笑う。 「礼於のせいじゃないよ。耳が茶色くたって、他の犬と違くたってそれでもちぃは礼於が好き。」 「ちぃはこんなにいじめられっこだけど、それでも礼於はちぃのこと好き?」 ちぃが不安そうに尋ねる。 絵をくわえてちぃに渡す。ちぃの血がにじんだ額を舐めて尻尾をふる。 そんなこと関係ない。それでも…。 それでも僕はきみが大好きだ。
/66ページ

最初のコメントを投稿しよう!

199人が本棚に入れています
本棚に追加