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それでも君が好き
「礼於、動いちゃダメ」
僕に必死に訴えながらちぃはクレヨンを握りしめている。
今日の宿題は「家族」の絵を描くこと。
ちぃは家族として僕を描いてくれている。
それが何だかくすぐったくて、照れくさくてじっとしていられない。
しばらくスケッチブックと格闘していたちぃが、「できた!」と叫んで僕に自慢気に絵を見せてくれる。
ちぃは絵を描くのがひどく苦手。茶色く塗られた両耳でかろうじて僕だってわかる。茶色い耳で良かったなんて初めて思う。
喜びを尻尾で一生懸命表現する。
ご機嫌なちぃはその絵を持って僕と散歩に出掛ける。ちぃの仲良しな橋の下に住むおじいちゃんに見せに行くのだ。
ご機嫌で歩いていたちぃがピタリと足を止める。
「あ!いじめられっこのちぃだ!」
数人の男の子がちぃを見つけて取り囲む。
ちぃは絵と僕を抱えて後ずさりする。
「ちぃが変な耳の犬連れてるぞ」
笑いながらじりじりと寄ってくる。
「礼於は変じゃないもん!」
泣きそうになりながら、それでもちぃは僕をかばう。
こいつらがいつもちぃを傷つけてるんだ。
僕は悔しくって、ちぃの腕の中から飛び出した。
向かって行こうとする僕に石が容赦なく投げられる。
「礼於!!」
僕を捕まえてお腹の下に抱えてうずくまる。石がちぃの額に当たり血がにじんだ。
離してよ!ちぃ!こんなやつら僕が追い払ってやるから!
精一杯吠えてちぃに訴えるけど、ちぃは僕を離さない。
「二度と学校に来るなよ!」そう言い放って男の子たちは去っていった。
ちぃの描いた絵が踏みつけられてぐしゃぐしゃになっている。
ごめんね…。僕の耳のせいだ…。
涙で視界がにじんだ。
そんな僕に気付いてちぃが笑う。
「礼於のせいじゃないよ。耳が茶色くたって、他の犬と違くたってそれでもちぃは礼於が好き。」
「ちぃはこんなにいじめられっこだけど、それでも礼於はちぃのこと好き?」
ちぃが不安そうに尋ねる。
絵をくわえてちぃに渡す。ちぃの血がにじんだ額を舐めて尻尾をふる。
そんなこと関係ない。それでも…。
それでも僕はきみが大好きだ。
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