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僕とちぃの約束
額の血も止まりちぃは軽く膝を叩いて立ち上がる。
ぐちゃぐちゃになって原型も留めていない絵を大切そうに握りしめた。
「礼於行こうか、おじいちゃん待ってるね」
涙でくしゃくしゃになった顔に精一杯笑顔を浮かべる。
僕はひと吠えしてちぃに寄り添って歩き出す。今度誰かがちぃを傷つけようとしたら必ず守ってあげるんだ。傍にいるだけで何も出来ないのはもう嫌だ…。
おじいちゃんはいつものように手作りの椅子に座り河を眺めている。ちぃに気がつくとにっこりと笑う。
「ちぃや、いらっしゃい」
そういうと、何も聞かずにちぃの額を見る。そして慣れたように消毒をする。それはまるでいつものことのようで、僕はちぃの毎日増えてゆく傷を思いだす。
「礼於を描いたんだけど…」
おずおずとぐちゃぐちゃになった絵を差し出す。
「おや、上手く描けたじゃないか。礼於も嬉しいだろう?」そう言って僕の頭を撫でてくれる。
ちぃはにこぉっと少し照れくさそうに笑う。「わたし、礼於とおじいちゃんにお花つんでくるね!」そう言ってちぃは河原へかけていく。
ちぃを見つめながらおじいちゃんが僕に話しかける。
「あのこは本当にいい子なんだ。ホームレスと社会から名付けられたわしにも優しくしてくれる。礼於、お前はいつかどうしてもちぃより先に逝ってしまうだろう?それまではちぃの傍にいてやってくれ。親でさえ傍にいてやれなかった…。傍にい続けるというのは思うより難しいことなんだよ。」
驚いた。僕は毎日傍にいることしか出来ないと哀しんでいた。それすらも出来ないことがあるなんて考えたこともなかった。
名前が欲しかった僕。いじめられっこやホームレスなんて欲しくない名前をつけられた、ちいとおじいちゃん。
世界が哀しかった。こんなに優しい温かい人たちにこんなにも冷たい世界が…。
僕は決めた。誰がどんなに冷たくしたって、僕だけはちぃの傍にいよう。
だって僕の世界はちぃが作ってくれたから…。例え僕が傷だらけになっても僕がちぃの傍にいる。
ちぃには内緒の約束。
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