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ちぃの光が消える日
花をつんで楽しそうにちぃが戻ってくる。
おじいちゃんには花束をプレゼントし、僕には花飾りを首にかけてくれる。
それからちぃはおじいちゃんにたくさんの話をした。
僕と過ごす日々の話。僕の大好きなボール遊びのこと、毎日くるまって眠るお気に入りの毛布のこと。
「礼於が傍に来てくれてから、世界がとても明るくなったのよ!」ちぃが笑う。
おじいちゃんが尋ねる。
「暗闇は怖くなくなったかい?」
その言葉でふと思いだす。ちぃはひどく暗闇を嫌うのだ。
僕はただの怖がりだと思っていたけれど、本当は違うのだとおじいちゃんが教えてくれた。
ちぃの目は他の子とは違うのだ。
難しいことは僕にはわからなかったけれど、ちぃは夜にはほとんど目が見えないらしい。それだけじゃない。ちぃはいずれ大人になる頃光を失うそうだ。
絵が苦手なちぃ。ぼやけた世界。
暗闇を怖がるちぃ。見えない世界や、少しずつぼやけていく世界はどれほど怖かっただろう…。
いずれは失う世界がどれほど哀しかっただろう…。
そしてちぃはママに捨てられた。
僕らは似たモノ同士。生まれもったモノのせいで、愛されることが出来なかった。
だけれど、好きでこんな風に生まれついたわけじゃない。
石を投げられて、毎日いじめられなきゃいけない理由になんてならない。
「礼於だけがぼやけた世界ではっきり見えたのよ。礼於がいれば光を失っても怖くないわ。これ以上泣かないよ。涙で世界がぼやけてしまう方が哀しいもの。」
ちぃが力強く言う。
ちぃが光を失う日。
その時まで僕は傍でちぃのいる世界を見つめ続ける。涙で世界がぼやけないように…。
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